お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜
左隣の圭衣ちゃんは、今にも怒りを爆発させそうな顔で、言い争う二人を睨んでいた。

ーーなんだろう。まるで、ドラマの茶番を見ているみたい。

ふと、右隣のようちゃんと目が合う。


「美愛は、どうしたいの?」


小さな声。

……どうしたい?

ここにいたくない。何もしていないのに責められるのは、もう嫌。

雅さんにもーーもう、疲れた。

……終わりにしよう。全部。


「……もういい」


ぽつりと、こぼれる。


「終わりにする」


自分でも驚くほど、静かな声だった。ようちゃんが、小さく頷く。そして左へ顔を向け、圭衣ちゃんに伝えた。


「ドレスは、もういらない。ごめんね」


ーードレス。

その一言で、全部が煙のように消えていく気がした。

驚いた表情の圭衣ちゃんを横目に、私は立ち上がった。

仁さんに、この場を用意してくれたことへのお礼。副社長にも、簡単に頭を下げる。


「……明日、退職届を出します」


それだけ告げて、振り返らずに部屋を出た。




エレベーターの前で、ようちゃんと並んで立つ。すぐ後ろから、足音が聞こえる。


「美愛ちゃん!」


雅さんと、仁さん。


「お願いだ。二人だけで話したい」


……今さら。

閉じたままのエレベーターのドアを、ただ見つめる。


「姫ちゃん、俺からも頼む。雅と話してやってくれ」


仁さんの声も届いた。ようちゃんが、そっと耳元で囁く。


「美愛、最後に話してみたら?」


……最後。

彼女を見ると、しっかりと頷くようちゃん。

ーー行っておいで。

その無言の後押しに、ゆっくり息を吸った。




仁さんの配慮で、社長室を借りることになった。静かに扉が閉まる。

雅さんと、二人きり……久しぶりだ。

近くで見ると、目の下のクマはさらに濃く、無精ヒゲもそのまま。こんなにやつれた彼を見るのは、初めてだった。

胸が、少しだけ痛む。

……でも、それとこれとは、別。


「金曜日、『ホテル9(クー)』で仁に呼び止められたんだ」


雅さんが、ゆっくり話し始める。


「あんなに怒っているあいつを見たのは初めてだった……」


苦笑のような、寂しそうな表情。


「あの場で言い争っていた二人は、恋人同士なんだ」


……え?


「彼らは、男性同士のカップルだ」


一瞬、言葉の意味が理解できない。頭の中が、止まる。
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