お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜
えっ……

あの綺麗な人ーー男性なの?

一瞬、思考が追いつかない。


「君に、特別な婚約指輪を贈りたくて……」


雅さんの声が、ゆっくり届く。


「圭衣ちゃんに、三輪紫道(みわ・しどう)くんを紹介してもらった」


……ああ。圭衣ちゃんの、大学時代の友人。
このホテルに入っている、ジュエリーショップの。


「金曜日に君が見たのは、彼の恋人。職人の香月(こうづき)いよりくんだ」


……そういうことだったんだ。全部、繋がっていく。

窓にもたれていた雅さんが、ゆっくりこちらへ歩いてくる。そして、少し距離を空けて隣に座った。

その距離が、妙にリアルで。


「この指輪を完成させるために、俺自身がやるべきことがあった」


静かな声。


「思った以上に時間がかかってしまって……ごめん」


……違う。そうじゃない。


「雅さん」


自分でも驚くくらい、落ち着いた声が出た。


「私がどうして怒ってるのか……わかる?」


一瞬の沈黙。


「……俺が浮気していると思ったから?」


違う。


「香水の匂いも、腕を組んでたのも……嫌だった」


でもーー


「一番嫌だったのは」


言葉が、喉に引っかかる。それでも、ちゃんと出す。


「……嘘をつかれたこと」


雅さんの表情が、止まる。


「もしかして……理由が嘘だって、知っていたのか?」

「知ったのは偶然。でも、その後も普通に嘘をつかれて」


一度、息を吸う。


「……このまま結婚していいのか、わからなくなった」


はっきり言えた、逃げずに。

今度は彼が、大きく息を呑む。


「俺は……良かれと思って」


苦しそうに言葉を探している。


「全部、裏目に出ていたんだな。これを、見てほしい」


差し出された、ベルベットの箱。見た目以上に重い。指先に、その重みが伝わる。

私は、ゆっくりと蓋を開けた。
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