お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹 美愛と雅の物語
第4章:休日の余韻
雅サイド
土曜日の朝。予定の前に会社に到着し、コンピューターをオンにする。
花村さんはまだのようだ。
右側の壁際には簡易デスクがひとつ。2日前、副社長の大和に押される形で置いた。ここなら、総務のトラブルメーカー・悪魔の佐藤から花村さんを守れるから。実際昨日、佐藤が総務部で花村さんにひどい罵声を浴びせたと報告を受けた。やはり大和の言うことは聞くべきなんだ。
設置する理由はわかっている。それでもどこかまだ花村さんを、完全に信用しているわけではない。だから彼女がそこに座れば、自然と壁を向くようわざとそう置いた。余計な視線を遠ざけるには、これくらいで十分だ。
そんなことを考えながら、部屋の角にあるコーヒーバーへ向かう。仕事前にお気に入りの豆でコーヒーを淹れよう。
--トントントン
控えめなノック音の後に、静かにドアが開いた。
「お、おはようございます、社長」
「あっ、おはよう。今、コーヒーを入れているところなんだけど、飲むよね?」
棚からコーヒー豆を取り出しながら、彼女に聞いた。
「えっ、はい。ありがとうございます。お願いします。あ、あの。社長は朝食をお召し上がりになりましたか?」
「今日はまだ食べてないなぁ。花村さんは?」
「私もまだです。もしよろしければ、甘いものいかがですか?」
ランチバッグから、巻かれたパイのようなものを取り出した。
レーズンは入っていない。父親が嫌いだから、と彼女が説明してくれた。甘酸っぱいリンゴと、軽く焼いたくるみの香ばしさが食欲をそそる。思いがけない差し入れだった。しかも、俺の好物の甘い菓子。
こういう気遣いを、俺はこれまでの秘書たちに向けられたことがあっただろうか。
「えっ、これパイ? 美味しそうだなぁ。実は甘いものが大好きなんだよ。だからBON BONを始めたのもそのためなんだ。これ、作ったの?」
彼女が差し出してきたのは、ドイツの菓子だと言うアップルシュトゥルーデルだった。
「はい。社長、アレルギーは大丈夫ですか?」
「大丈夫。ちょうどコーヒーもできたし、仕事の前にいただこう」
俺たちは応接用の椅子に向かい合って席に着く。淹れたコーヒーの香りは、どこか両親がやってる喫茶BONを思い起こさせる。彼女は小さく『いただきます』と呟く。ひと口コーヒーを飲み、目を大きく開きカップの中を見つめた。
「花村さん、どうしたの? コーヒーは口に合わなかった?」
「ち、違います。とても美味しいです。あの、このコーヒーはもしかして南ドイツの『Bayern Kaffee』ですか?」
今度は俺が驚いた。
「えっ、すごい! よくわかったね。日本ではこれを知っている人はあまりいないんだ」
「日本ではまだ販売されていませんよね」
花村さんはまだのようだ。
右側の壁際には簡易デスクがひとつ。2日前、副社長の大和に押される形で置いた。ここなら、総務のトラブルメーカー・悪魔の佐藤から花村さんを守れるから。実際昨日、佐藤が総務部で花村さんにひどい罵声を浴びせたと報告を受けた。やはり大和の言うことは聞くべきなんだ。
設置する理由はわかっている。それでもどこかまだ花村さんを、完全に信用しているわけではない。だから彼女がそこに座れば、自然と壁を向くようわざとそう置いた。余計な視線を遠ざけるには、これくらいで十分だ。
そんなことを考えながら、部屋の角にあるコーヒーバーへ向かう。仕事前にお気に入りの豆でコーヒーを淹れよう。
--トントントン
控えめなノック音の後に、静かにドアが開いた。
「お、おはようございます、社長」
「あっ、おはよう。今、コーヒーを入れているところなんだけど、飲むよね?」
棚からコーヒー豆を取り出しながら、彼女に聞いた。
「えっ、はい。ありがとうございます。お願いします。あ、あの。社長は朝食をお召し上がりになりましたか?」
「今日はまだ食べてないなぁ。花村さんは?」
「私もまだです。もしよろしければ、甘いものいかがですか?」
ランチバッグから、巻かれたパイのようなものを取り出した。
レーズンは入っていない。父親が嫌いだから、と彼女が説明してくれた。甘酸っぱいリンゴと、軽く焼いたくるみの香ばしさが食欲をそそる。思いがけない差し入れだった。しかも、俺の好物の甘い菓子。
こういう気遣いを、俺はこれまでの秘書たちに向けられたことがあっただろうか。
「えっ、これパイ? 美味しそうだなぁ。実は甘いものが大好きなんだよ。だからBON BONを始めたのもそのためなんだ。これ、作ったの?」
彼女が差し出してきたのは、ドイツの菓子だと言うアップルシュトゥルーデルだった。
「はい。社長、アレルギーは大丈夫ですか?」
「大丈夫。ちょうどコーヒーもできたし、仕事の前にいただこう」
俺たちは応接用の椅子に向かい合って席に着く。淹れたコーヒーの香りは、どこか両親がやってる喫茶BONを思い起こさせる。彼女は小さく『いただきます』と呟く。ひと口コーヒーを飲み、目を大きく開きカップの中を見つめた。
「花村さん、どうしたの? コーヒーは口に合わなかった?」
「ち、違います。とても美味しいです。あの、このコーヒーはもしかして南ドイツの『Bayern Kaffee』ですか?」
今度は俺が驚いた。
「えっ、すごい! よくわかったね。日本ではこれを知っている人はあまりいないんだ」
「日本ではまだ販売されていませんよね」