お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語
予定していた3時よりも早く終わり、一緒にエレベーターホールに向かった。


「花村さん助かったよ、ありがとう。この後はどうするの?」

「このまま帰ろうかと思っています」


そう答えた彼女。俺は少し考えた末、思い切って尋ねた。


「あのさ……ケーキの食べ放題、一緒に行かない?」

「えっ、ケーキの食べ放題……社長が?」


誘うのに少し緊張している俺は、バツが悪く照れ隠しでそっと右手を頭の後ろに添える。


「さっきも言ったけれど、甘いものが大好きなんだよね。それに、友人からホテル9
(クー)の個室ケーキ食べ放題のチケットをもらって。その予約が今日なんだ。こんなオジサンと一緒で申し訳ないんだけど、もしよければ、行かないか?」


数回瞬きを繰り返す彼女の大きな瞳。しばし無言になってしまった。

やっぱり嫌なんだろう。こんな年も違う男と一緒なのは。それに断りづらいよな、社長からだと……


「ぜ、ぜひご一緒させてください!」


胸の前に小さな拳を作り、大きな笑顔を貼り付けている花村さん。まるでお菓子屋で好きなものを買っていい、と言われた子供のように目が輝いている。

その輝きは、よく俺や慶智の王子たちの周りに寄ってくる、あのギラギラした獲物を狙うものではない。彼女は純粋に、ホテル9(クー)の食べ放題へ行けることを喜んでいるんだと分かる。


「社長は筋金入りの甘党なんですね。甘党仲間が増えて嬉しいです。あっ、社長はオジサンではありませんよ。社長がオジサンなら、うちの父はオッチャンということになりますね?」


首を少し傾げてしみじみと言う彼女の言葉に、先ほどからの緊張感も解けて思わず吹き出してしまった。これが大和が言っていた『天然』の部分か。


「ぷっ、ククク……じゃあ、行こうか」




地下駐車場に向かい、助手席のドアを開ける。


「どうぞ、花村さん」


一瞬、彼女が乗るのをためらい、何か迷っているように見えた。


「あ、あの。本当に私がご一緒してもよろしいのでしょうか?」

「どうしてダメなの?」


意味がわからず、聞き返した。


「社長の彼女さんに申し訳ありません」

「あはは〜、そんなことを気にしていたの? 彼女も恋人も許婚も婚約者も妻もいないから、気にしなくていいよ」

「あ、はい。では、遠慮なく」


ホッとした彼女は安心して乗り込み、俺は車を走らせた。



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