お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜
通話を終えた社長は、深いため息をひとつついた。向かいの椅子に前かがみで腰を下ろし、しばらくうつむいたまま足元を見つめている。

私の頭の中ではすでに、よくないことが起きていると警告音が鳴っていた。手のひらがじっとりと湿る。

やがて何かを決心したかのように、社長はゆっくりと上体を起こした。携帯の録音機能を起動し、私を真っ直ぐ見据えて口を開く。

 
「これから質問することに対して、正直に答えてください」

 
コピー用紙に記載されているブランド品の着用の有無や、その入手経路についても尋ねられた。

何が起こっているのか理解できず、不安を押し込めるように、いつもの癖で左手を服の上から伸ばし、赤いベルと牛のチャームに触れる。それでも呼吸はさらに速くなり、息苦しさが増していく。

彼の声も、表情も、今まで見たことのないほど冷たい。まるで別人のようだった。

ーーこの人は、一体誰なの。

落ち着こうとしても、体がそれを拒む。声の震えさえ止められない。

 
「ク、『Cool Beauty』は、私の姉の会社で……私のためにデザインして作ってくれたものを着用しています」

「次の質問です。花村さん、あなたはこのメールに記載されているような行為ーーすなわち、会社の名誉を損なう行為を行っていますか?」

 
なぜこんな質問をされるのかわからない。社長……雅さんなら、わかっているはずなのに。

そう思えば思うほど、暗闇に引きずり込まれるような感覚に襲われた。胃の奥が、きゅっと冷たくなる。

信用されていない。私が悪いーーそう思わされる。

小さく頭を振り、彼から視線を逸らす。わずかに俯いたまま、答えた。


「一切していません」

「では、お姉さんは日本にいらっしゃいますか? できれば今日こちらに来ていただけますか。今、この場で電話をお願いします」

 
小さく息が漏れる。震える指先で携帯のボタンを押した。もう、私の言葉は信じてもらえない。


「もしもし、美愛ちゃん?」


いつも通り明るい圭衣ちゃんの声に、息が、ほんの少しだけしやすくなった。それだけで、目頭が熱くなる。


「……」

 
言葉に詰まる私の異変を、圭衣ちゃんはすぐに察したようだった。

 
「美愛ちゃん、どうしたの? 大丈夫?」

「Ich habe eine Bitte: Könntest du zu meiner Firma kommen?――お願いがあるの、私の会社まで来てくれるかな?」

 
電話を終え、彼から視線を逸らしたまま、小さく告げる。


「6時前には来られるそうです……他に、何かありますか?」
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