お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜
……なんとなく、瞳の色や、笑ったときにできるエクボが気になっていた。けれど、確信はない。たとえ美愛ちゃんが、あの姫だったとしてもーー彼女が俺と同じ気持ちでいるとは限らない。

あの約束を、いまだに覚えているのは、俺だけかもしれない。何より誰かを好きになることが、怖い。また傷つくのが。

そう、大和に本音を打ち明けた。


「美愛ちゃんが覚えているかどうかは、正直どうでもいいことだよ」


前のめりに座った大和は、片手で髪をかき上げ、そのまましばらく黙り込んだ。


「重要なのは雅、お前の素直な気持ちと、傷ついた美愛ちゃんのために、何をするかだ」


肘掛けに置かれた大和の指が、規則的に動いている。音はほとんどしない。それでも、その無音のリズムが、やけに耳に残った。

ーー怒っている。いつも温厚な大和が、本気で怒っている。


「雅。このまま一歩踏み出さないでいると、他の男に奪われるぞ。それでもいいのか?」


その言葉に、何かがプツンと切れた。

美愛ちゃんが、他の男と……?


「……それだけは嫌だ」


頭に浮かんだ光景を振り払うように、小さく首を振る。




ブレーン8での会議では、佐藤麻茉の行為に関する証拠映像が確認された。

この後、美愛ちゃんのお姉さんから証言を取り、慶智の王子七人で正式に協議のうえ、懲戒解雇とすること。加えて、すべての三光銀行本店および支店との取引を即時停止することが決定された。

告発メールの件についても、俺は重い口を開いた。


「あの社内メールにある写真の男は、俺です。現在、花村さんと同居しています。したがって、内容は事実ではありません」


社内で同居を知っていたのは、大和と人事部長のみだったはずだが、誰も驚かなかった。


「何だ、先輩。てっきり花村さんと婚約するのかと思っていましたよ」


総務部長の杉山が、軽い調子で笑う。


「早くしないと、他の人に取られちゃいますよ?」


それに同調するように、他の部長たちも頷いた。

……みんな、気づいていたのか。

肩の力が抜ける。結局、意識しすぎていたのは、俺だけだったらしい。

ここでもまた、「踏み出せ」と言われているようだった。




美愛ちゃんの姉、花村圭衣ちゃんが来社した。予定よりも早く。

母親の久美子さんに似た、和の面影を持つ美人。身長は170センチほどで、モデルのようなスタイル。

いわゆるーークールビューティー。その言葉が、これほど似合う女性も珍しい。
< 68 / 125 >

この作品をシェア

pagetop