お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語
キッチンでは、支度を終えた雅さんがコーヒーを淹れてくれている。

寝坊して朝食やお弁当の準備ができていないと伝えたが、今日は必要ないとのこと。ただ今日は、彼の車で一緒に通勤し、帰宅することになった。

なんでも今夜、話があると言われる。


「夕飯は、下のスーパー伊国屋のデリで買おう。実は今夜、大切な話があるんだ。昨日のことはもちろん、美愛ちゃんに謝罪し伝えたいこともあるから」


どうしよう、『大切な話』と『伝えたいこと』、という言葉が頭から離れない。

また、嫌なことかな?





マンションから会社までほんの数分の距離だけれど、さっきの言葉のせいで、とてつもなく長く感じる。


駐車した雅さんに突然右手を優しくつかまれ、手の甲にキスされた。もう一度一緒に帰ることを念を押され、私はただうなずくだけで精一杯だった。

いったい何なんだろう?

サクラスクエア地下駐車場で雅さんと別れた後、私は南側のエレベーターで仕事に向かう。

ふとケータイの着信音に気づき、画面に表示された名前を確認した。

あっ、父さまからだ……
珍しいな、何だろう?





今朝、副社長も伊集院総合法律事務所へ直行しているようで、美奈子さんが仕事の指示を出してくれたが、今までに経験したことのないような単純なミスを連発してしまう。大事には至らなく済んだが、集中できない。

こんな自分が情けない。



お昼休み、食欲がない私はドリンクコーナーでホットラテを作り、空中庭園へ一人で出かける。

10月中旬とはいえ、天気の良い日中は暖かくて過ごしやすい。みんなは下のレストラン街に行っているのだろう。

ここには私以外に誰もいない。

昨日、座ったベンチでいろいろと考えてしまった。
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