お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜
「これは立派な犯罪です。伊集院先生、法的措置をお願いします」
一切の迷いがない。逃げ道を与えるつもりもない声だった。
「それとーー」
その一拍で、佐藤の顔色がさらに変わった。
「あなたのような方がいる銀行とは、今後一切ビジネスを行いません」
淡々としているのに、重い。その一言だけで、どれほどの損失になるのかがわかる。
「現在、私の秘書が手続きを進めています。三光銀行の会長にも、すでに連絡が行っているはずです」
佐藤の呼吸が浅くなる。
「私の会社、妻のクリニック、娘の会社ーーそして我が家。すべてが三光銀行から手を引くことになります」
静かに、確実に、追い詰めていく。
「それでも問題はないのでしょう?
何せーー」
ジョセフさんは、ほんのわずかに口角を上げた。
「我が家は、『どこの馬の骨かもわからない』人間ですから」
微笑みながら淡々と伝えるジョセフさんに、佐藤の焦りはさらに増した。
追い打ちをかけるように、涼介がこちら側の条件を伝え、麻茉が出禁となっている店舗のリストを渡す。
佐藤麻茉は相変わらず自分の爪ばかり見て何やらブツブツと呟いている。
こいつ、今の状況を理解しているのか?
リストを受け取った佐藤麻茉は、ようやく、自分の状況を理解したらしい。
「どうして私が出禁なの? ねぇ、パパ、おかしいわよ。何とかしてよ!」
先ほどの発言を訂正する。自分が置かれている状況を全く理解していない。
……こういうタイプは、本当に苦手だ。
涼介がこめかみに青筋を立てて怒っている。
「麻茉さん。あなたからの反省や謝罪がなければ、法的措置を進めることになりますので、その点をご理解ください」
涼介は苛立ちを抑えきれない様子で、説明を行った。5時の再来を告げ、佐藤親子に退室を促した。
全員でランチを取りながら、これからのことについて話し合った。
ランチの後、仁、彰人、京兄、悠士兄はそれぞれ会社と病院に戻った。
戻る前に、京兄から別室での出来事を聞いた。佐藤敏夫が美愛ちゃんを誹謗中傷した際、圭介叔父さんとジョセフさんがすぐに会議室へ向かったが、その後、圭衣ちゃんが荒れ狂ったらしい。
「おい、カッパおやじ。あんた、私にケンカを売ってんの? うちの可愛い美愛ちゃんに、なんてことを言ってくれてんのよ?」
圭衣ちゃんは、俺たちの様子が映し出されるスクリーンに向かって、叫び始める。
「美愛ちゃんはね、あんたのクサヤ娘よりも何千倍も綺麗でいい子なんだからね! あんたのその頭の皿、かち割ってやるから待ってろよ!」
殴り込みに行こうとする圭衣ちゃんを、大の男たち四人が笑いをこらえながら止めにかかったらしい。しかも、あの香水の匂いが強い佐藤麻茉のことを「クサヤ娘」とは。
この話を俺と一緒に聞いていた大和が呟いた。
「さすがだな、僕の圭衣ちゃん!」
ーー「僕の」?
昨日から感じていたが、大和は圭衣ちゃんに気があるのではないか。それに、圭衣ちゃんは基本的に俺たち王子のことを役職名か下の名前に「さん」をつけて呼ぶのに、なぜか大和だけは呼び捨てだ。
やはり、この二人には何かある。