せっかくの婚約ですが、王太子様には想い人がいらっしゃるそうなので身を引きます。
「メルーナ嬢、家に帰りづらい理由があるのですか? マルシド様をラフェシア様は悪い人ではないと判断したようですが、実はそうではなかったとか?」
「いいえ、そういう訳ではありません。お兄様は、清廉潔白です。お父様も私も、アヴェルド殿下とのことを伝えていませんでした。隠していたとさえ言えます」

 私の質問に、メルーナ嬢はゆっくりと首を振った。
 マルシド様という人物は、サジェードとは違い、本当に事件のことを知らない無垢な人であるらしい。
 しかしそれなら、何故メルーナ嬢が帰ることを躊躇う必要があるのだろうか。温かく迎え入れてくれそうなものだが。

「でもだからこそ、私はお兄様に顔向けすることができません。私はお父様とともに、不正を働いていたのですから」
「それは……」

 メルーナ嬢の言葉に、私は驚いた。
< 213 / 246 >

この作品をシェア

pagetop