『46億年の記憶』 ~命、それは奇跡の旅路~   【新編集版】
 そんなことを思い出しているうちに旅番組が終わったので、真理愛はテレビを消した。
 そして、書棚からアルバムを取り出して、テーブルの上に広げた。
 
「わ~、懐かしい。フィレンツェだ」

 巨大なドームが特徴の大聖堂(ドゥオーモ)の前でピースサインをして写る二人の写真を指差して、考子は大きな声を出した。

「シー」

 真理愛は唇に人差し指を立てて考子を(いさ)めた。

 またやっちゃった、と考子は右手の拳で頭を叩く真似をした。そして、口にチャックをする振りをした。
 それを見てフッと笑った真理愛がアルバムをめくると、絵の写真が現れた。
 それは、考子が一番好きな絵だった。
『小椅子の聖母』
 ラファエッロが1514年に描いた傑作で、円形画(トンド)の中にマリアと聖母子と聖ヨハネが描かれており、特にマリアの眼差しは何人(なんびと)をも惹きつける優しさを湛えている。
 
「考子は30分近くこの絵の前から動かなかったわよね」

 当時のことを思い出した真理愛が小さく肩を揺すって笑った。

「だって、彼女に見つめられたら動けなくなって……」

 写真に吸い寄せられるように顔を近づけると、「はい、おしまい」といきなり真理愛がアルバムを閉じた。
 そして、「また動けなくなったら大変だからね」と考子の鼻をチョンと突いた。

 考子は不満気に鼻を膨らませたが、それを気にかけることもなく、真理愛がスペイン愛を語り始めた。

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