あなたと運命の番になる

｢私ね、もともともは小さな洋食屋の娘なのよ。｣

瞳はそう言って昔の話を少しする。こんな大きな家の奥様なのに、決して自慢することなく、昔の話を面白おかしく話してくれる。蘭は話に引き込まれた。

｢それでね。主人に出会ったの。｣

蘭はまだ直接会ったことはない。αで男性ということで、配慮されているのだろう。この家を建てられるのだから相当な働き手に違いない。たまに瞳や真由との会話が聞こえるが、口調は優しく家族想いなんだろうなって思っている。

｢拓也から聞いたかもしれないけど、私達は番なの。だから、身分の差で主人の家からはとても反対されたわ。｣

瞳は旦那との馴れ初めを話し始めた。瞳は惚気けるような話し方はしないが、旦那から愛されてるなということが伝わる。

｢主人が店に来て、話す度に楽しかったわ。当時は主人が‪α‬なんて知らなかったし、むこうも私がΩってことは知らなかったんじゃないかな。Ωの私には恋愛なんて無理だって思ってたし、この気持ちは憧れくらいに思ってた。はっきりと自分の気持ちに気付いたのはヒートになった時ね。主人のことばかり考えて、体が疼くのよ。消しても消しても浮かんでくる。ただの知人なのにこんな風に思ったら相手は自分のことを気持ち悪く思うだろうなと思った。自分のことが嫌になったわ。その時のヒートには懲りて、もう会うのはやめようって思ったの。｣

蘭は自分と同じようなエピソードに驚く。

｢会わないと決めても、主人は何度も店に来て、話しかけてきたわ。でも本当の気持ちは好きだから、追い払えない。ヒートはどんどんきつくなる。それで主人が来てる時にヒートを起こしてしまったの。私はその時のことはあまり覚えてないけど、主人は番だと確信したみたいね。｣

｢その時のヒートがとにかく辛くて。入院もしたし、薬も使ったけどよくならなかった。
心折れそうになった時、入院部屋に主人がやってきたの。｣