あなたと運命の番になる
蘭は隣に視線をやる。

マッシュルームのような重い髪型に厚いメガネで、髭も生えている。一件地味に見えるが、顔の輪郭はシャープで鼻が高く、眼鏡越しでもわかる、切れ長の綺麗な目をしている。

袖から出た筋肉質な腕に血管が綺麗に浮いている。きっと腕フェチの人ならみんなが好きになるような色気のある腕だ。
そして綺麗な手でスマートにハンドルを回す。

ボーッと見ていると、和真と目が合う。

「どうしましたか?」

ニコッと笑って声をかけられ、あわてて目をそむける。
見とれていましたなんて絶対言えない。
急に恥ずかしさがこみ上げる。

「なんでもないです・・・。」

蘭は消えそうな声で答えた。

「ちょっと寒いですかね。冷房少し切りますね。」

最近の5月はもう暑い。
だが、冷房が効きすぎると寒く感じる。

「・・ありがとうございます。」

蘭は何かわからない変な感情に蓋をしようとする。
こんな気持ちになるのは初めてで何がどうなってるのか分からない。
気持ち切り替えないとと思い、最近思っていたことを話す。

「谷本さんって凄いですよね。
仕事覚えるの早すぎてびっくりしました。
あとさきほどの残業手当調べてくれた時です。コンピューターの使い方とても詳しいですし、あとめちゃくちゃタイピング早くて驚いちゃいました。」

蘭の素直な言葉は嬉しいが、社長の息子でいつもパソコンを使って仕事をしている。‪α‬であり、おそらく他人より少し仕事が早いなど絶対に言えやしない。

「そんなふうに言っていただけて嬉しいです。前の職場でパソコン使ってたんで、パソコン操作は少し得意なんです。」

和真は当たり障りのないありえそうな話をする。
この工場に来たということはおそらく前の職場で何かあったから来たと普通は考える。空気の読める蘭は詳しくは聞いてこないだろうと予想し、前の職場と適当に話した。

「そうなんですね。
これから工場で大活躍されそうです!」

和真の予想通り前職を追求することなく、相手が嬉しくなることをサラッと言ってくれる。
蘭の人の良さを改めて感じた。

話しているとあっという間に家に着く。

蘭の丁寧なおじぎに見送られながら、自分の家に帰る。
蘭を乗せた後の車内は寂しいけど、少し満足感がある。

なぜここまで蘭に気を回しているのか自分でもよく分からないが、蘭のかわいい表情を思い出しふっと笑みがこぼれた。
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