ストーカー三昧・浪曲、小話、落語

聖体拝受

ここでそれを披露したいくらいですがまあ紙面の関係もこれあり、止めときますが…えー、それで私が云いたいのは「解答〝らしきもの〟」といま云った通りに、いかに彼の天才的感性を以ってしてもですよ、結局〝らしきもの〟でしかなかった分けです。「神とは?永遠とは?人間とは?人に救いはあるのか…?」等への解答は得られなかったということです。えー、しかしですね、ここで彼にまつわるエピソードを一つご紹介したいのですが、実はそのエピソードの内に彼ランボーが生涯を掛けて求めた疑問への解答があったのではないかと、そう思う分けであるからです。
 えー、で、そのエピソードというのは彼の終焉の地となったマルセイユで…えー、実は彼はアフリカにおける隊商を率いての商取引を続ける間に悪性の腫瘍を患い、這う這うの体でマルセイユまで辿り着き、その地で右脚切断の手術を受けたのですが、既にガンは全身に転移していて結局彼はそこで没したのです。えー、で、その間ずっと彼の妹であるイザベル・ランボーがわざわざシャルルヴィル・メルヴィルから訪ねて来て、彼に付き添っていたのですが、いよいよの時、彼女イザベルは生涯彼女や母親に迷惑を掛け通しだった放蕩者の兄に「お願いだから聖体拝受を受けて!」と泣きながら懇願したのだそうです。かつての詩作で「おお、キリストよ。貧しく哀れな女たちの額を、汝の前で床に釘付けにさせた、汝、陰険なる神よ。エネルギーの大泥棒よ」とまで云って、悪魔派の詩人の面目躍如を果たした彼でしたが、ついに妹の懇願を受け入れて今際に聖体拝受を受けたのでした。母親のヴィタリー・ランボーともども敬虔なクリスチャンだったイザベルは、聖体拝受を受けなければ天国での復活はないと固く信じていたので斯くも強く懇願したのでした。
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