ならば、悪女になりましょう~亡き者にした令嬢からやり返される気分はいかがですか?~(試し読み)
(……でも)
楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってしまうもの。
そして、相手が隣国からの客人であっても、身分のある相手であっても、続けて踊ることはできない。何曲も続けて踊れば、ふたりが親しい仲であると周囲に見せつけることになる。
曲が終わるのと同時に、アウレリアは丁寧に一礼した。
「ありがとうございました、殿下。私は、あちらに戻りますね」
「……こちらこそ、感謝する」
エルドリックは、最初に声をかけてきた場所へとアウレリアを連れ戻してくれた。
彼の手が離れていくのを、なんとなく寂しいと思ってしまった。婚約者のいる身、こんなことを考えるのは間違っているのに。
「殿下、ありがとうございました。素晴らしい時間でした」
エルドリックに向かって丁寧に頭を下げ、顔を上げた時、貴族令息達と共にいるフィリオスが、遠くからこちらを睨(にら)みつけているのに気づいた。
自分は他の女性と話し込んでいたとしても、アウレリアが同じことをするのは許しがたいらしい。
(……義理は果たしたものね、帰りましょう)
もし、フィリオスが真摯にアウレリアに向き合ってくれていたとしたら。