ならば、悪女になりましょう~亡き者にした令嬢からやり返される気分はいかがですか?~(試し読み)
 個室の客には、店の商品すべてに加え、表には出していない特別な商品も見せるため、これが貴族の特権意識をくすぐるのだ。平民を主な客層としたこの店に、貴族がやってくるのもこれが大きな理由だ。

「お嬢様が、わざわざ店に立つことはないでしょうに」
「違うわ、ノクス。今の私は『ミア』でしょう?」

 店の奥の部屋を借り、着替えて出てきたアウレリアは満面の笑みで言い放った。
 ノクスの名を冠してはいるが、ノクスはこの商会の唯一のオーナーではない。共同出資者として、アウレリアも名を連ねている。
 今から六年前、母が亡くなった直後から、自分の身を守る術が必要だと考えていたアウレリアは、自分の商会を立ち上げるために貴族との伝手(つて)を求めて侯爵家に働きにきたノクスに目をつけた。

 ノクスの働きぶりは、他の使用人達と比較しても際立っていたのだ。
 自分で商売を始めたかったけれど、当時のアウレリアはまだ未成年。ひとりでは行動できない。
 商会の顔になれる能力があり、味方になってくれる大人が必要だったアウレリアは、ノクスに共同出資で商会を立ち上げないかと持ちかけた。
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