ならば、悪女になりましょう~亡き者にした令嬢からやり返される気分はいかがですか?~(試し読み)
「……そうだね。君は、いつまでもここに来られるわけではないからね」

 態度を『ミア』に対するものに変えた、ノクスがため息をつく。
 侯爵家の娘である今、時々こうして屋敷を抜け出てこの店に来ることができているけれど、王子妃になったらそれもできないだろう。
 正式に王子妃になる前に、店の権利関係はきちんとしておいた方がいい。
 わかっていてもぐすぐずしてしまっているのは、まだ婚儀の日まで時間があるからだ。
 今のフィリオスの態度を見ていれば、近いうちに破談を言い渡される可能性は否定できない。

 破談になった時、アウレリアに明るい未来はない。
 三十も年の離れた男に嫁がされるかもしれないし、あるいは、修道院に送られるかもしれない。その可能性を考えれば、店から完全に手を引いてしまうのは怖かった。
 だから、もう少し、もう少しだけ、ノクス商会での仕事を続けたい。

「……いらっしゃいませ!」

 ミアとして店に出たアウレリアは、明るい声を張りあげた。
 女性従業員が身にまとう制服は、貴族の屋敷で働くメイドの服を模している。茶色のワンピースに、白いフリルのついたエプロン、そしてボンネット。
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