傷心女子は極上ライフセーバーの蜜愛で甘くとろける
「逃げるなよっ……!」

 切羽詰まった漣の声が、凪の体を縛る。
 せめぎ合う感情が喉を塞いで、言葉にならない。

(なんで来るの?!私のことは遊びなんでしょ……?!)

 遊び相手が欲しいなら、また違う女性を探せばいいのに。逃げた凪のことなんて追ってこないでほしいのに。
 それでも嬉しいと感じてしまう自分がいて。
 
 クレヨンでデタラメに描いた子供の落書きのように、凪の胸の内は混沌としていた。収まりきらない感情が涙になって、凪の頬を一筋伝う。

「なんで……泣くんだよ……」

 漣が悲痛そうに顔を歪めて、凪の頬を濡らす涙を指で拭った。
 なんで泣いているのかなんてわからない。嬉しいのか悲しいのか、それもわからない。
 けれども漣の指先の温かさだけはわかる。するとまた涙が溢れてきた。

「ごめん、待ち伏せみたいな真似して。怖いよな……でも、あれで終わりなんて俺は絶対に納得できない」

 力強い眼差しが真っ直ぐ凪を捉えた。凪の腕を掴む漣の手にさらに力がこもる。凪はハッと息を呑んだ。

「お願いだ、凪。話をさせてくれ。十分だけでいい……頼む……」

 苦しげな懇願を、凪が跳ね除けられるはずがなかった。
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