傷心女子は極上ライフセーバーの蜜愛で甘くとろける
「漣だって私のこと信用してないでしょ?仕事のこと隠してたし。だから……」
「そんなわけないだろ!!」

 突如発せられた大声に、凪は体を震わせた。苦しげに顔を歪めた漣が、力任せに首筋を掻きむしっている。

「仕事のことを言わなかったのは……そうじゃなくて……凪には、肩書きとか金とかそういうフィルター越しじゃなくて、俺自身を見てほしかったんだ……」
「…………どういう意味……?」
「昔からさ、俺は美坂家の跡継ぎで、SKリゾートの次期社長でしかないんだよ。その肩書きだけが俺の存在意義だった。俺に近づいてくる人間は、金目当てか家目当てのどっちか。俺個人がどんな人間で何が好きかなんて、誰にも興味を持たれない。それも仕方のないことだって、ずっと割り切ってた。けど、凪は違ったんだ。社長の息子でもなんでもない、ただの美浜漣として俺と接してくれた。それがすごい心地よくて、楽しかったんだ」

 漣がハァーッと長いため息をつく。後悔とやるせなさが混じったような、そんなため息だった。

「だから言いたくなかった。凪にはずっと肩書きじゃなくて俺自身を見てほしくて言えなかった。でも……こんな風に凪を不安にさせるくらいだったら、初めから言っておけばよかったな……ごめん……でも瑠夏とは本当に何もないんだ」

 そう言って、不意に漣が凪の右手を握った。ゆっくりと彼の方に顔を向けると、かつてないほど真剣な眼差しに射貫かれる。

「俺は凪が好きだ。絶対に手放したくない。俺の言葉が信じられないって言うなら、信じさせてみせる。だから俺にチャンスを与えてくれ」
「チャンスって……」
「明日、もう一度会ってほしい。十五時に迎えに行くから」
 
 戸惑う凪は咄嗟に頷くことができなかった。
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