ショパンの指先
私はドキドキしながら封筒から紙を取り出した。その紙はネット画面を印刷したものらしく、A4の紙の左上に数行の文字が書いてあるだけだった。

「なに書いてあったの?」

 印刷された紙を見つめて固まる私に、優馬はカウンターから身を乗り出して紙を覗き込んだ。

 そこに書いてあったのはとてもシンプルな文面だった。


【ショパン国際ピアノコンクール推薦オーディション合格者
 富樫直美 桐谷洵
 以上2名を日本ショパン協会からの推薦者とし、それぞれ賞金(渡航費用)を贈呈し、日本代表としてショパン国際ピアノコンクールに出場する】


 私はたった数行の文面を繰り返し何度も読み返した。手が震え、文面が霞んで見えた。そこに書いてある内容はとてもシンプルなのにも関わらず、洵の名前を見ただけで頭が真っ白になって文章を理解するのにとても時間がかかった。

「杏樹……」

 文章を読んだ優馬が涙目になって、私を見ている。私はまだ雲の上にいるみたいに身体と頭がふわふわして、言葉を出すことができなかった。

「良かったわね」

 優馬が顔をくしゃくしゃにさせながら、私の頭をガシガシと乱暴に撫でた。すると急に涙が込み上げてきて、私は口を手で押さえながら下を向き、涙を零した。

 涙は次から次へと溢れ出てきた。必死で口を押さえて嗚咽を堪える。

 洵が、ピアノを続けていた。

 そして洵は誰にも頼らず自らの手でショパンコンクールの切符を手に入れた。洵は夢を諦めていたわけではなかった!
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