ショパンの指先
……長い事黙り続けていた。どうしての答えが言えなかったからだ。頭では色々な理由が思い浮かぶけれど、言葉に出すと陳腐に聞こえる気がした。
「私と洵はもう終わったの。洵が突然いなくなったあの時に」
「でも洵は杏樹を迎えにきてくれたじゃない。いなくなったのだって、あんたを守れる度量のある男になるためじゃないの?」
「それは違うと思う。洵は洵自身のためにいなくなったの。でも勘違いしないで、そのことを恨んでいるわけじゃないの。ただお互い、大人になったのよ。だからもう、子供のようにがむしゃらに今だけを大切にして生きていくことはできない。まあ、久しぶりに会ったら、洵の方が遥かに大人になっていて驚いたけど」
「杏樹はそれでいいの?」
「この一瞬のためなら死んでもいいと思える相手に出会えたから、残りの人生なんておまけで構わない。一生分の幸せを、あの一夜で使ったの」
「……杏樹」
「やだ、同情しないでよ。私は後悔してないのだから。あの一夜がなければ洵はいなくならなかったかもしれないけど、あんなに成長していい男になった洵を見られたから、良かったって思える。洵の誘いを断って、もう二度と洵に会えないとしても……それでも……」
言いながら、涙が出てきた。泣き顔を見られるなんて、恥ずかしいし、後悔してないとか言いつつ、これで良かったのかって何度も何度も考えた。もう会えないって思ったら、自分がした決断を恨んだりもした。後悔なんてしないって口では何度も言っているけど、それは自分自身に言い聞かせるもので、そう思わないと心が壊れてしまいそうだった。自分が大嫌いになって、生きることに絶望してしまいそうだったから。
私は、本当はそんなに強くない。一人で生きていけるほど、強くなんかない。苦しい、本当は今すぐ洵の元に行きたい。毎日毎晩、付いていけば良かったって思った。自分の行動に全部責任持って、悩まずに後悔せずに生きていけるほど、強くない。でも、そうでありたいと思うから。そんな自分になりたいから、だから私は追いかけずに、今ここにいる。
「私と洵はもう終わったの。洵が突然いなくなったあの時に」
「でも洵は杏樹を迎えにきてくれたじゃない。いなくなったのだって、あんたを守れる度量のある男になるためじゃないの?」
「それは違うと思う。洵は洵自身のためにいなくなったの。でも勘違いしないで、そのことを恨んでいるわけじゃないの。ただお互い、大人になったのよ。だからもう、子供のようにがむしゃらに今だけを大切にして生きていくことはできない。まあ、久しぶりに会ったら、洵の方が遥かに大人になっていて驚いたけど」
「杏樹はそれでいいの?」
「この一瞬のためなら死んでもいいと思える相手に出会えたから、残りの人生なんておまけで構わない。一生分の幸せを、あの一夜で使ったの」
「……杏樹」
「やだ、同情しないでよ。私は後悔してないのだから。あの一夜がなければ洵はいなくならなかったかもしれないけど、あんなに成長していい男になった洵を見られたから、良かったって思える。洵の誘いを断って、もう二度と洵に会えないとしても……それでも……」
言いながら、涙が出てきた。泣き顔を見られるなんて、恥ずかしいし、後悔してないとか言いつつ、これで良かったのかって何度も何度も考えた。もう会えないって思ったら、自分がした決断を恨んだりもした。後悔なんてしないって口では何度も言っているけど、それは自分自身に言い聞かせるもので、そう思わないと心が壊れてしまいそうだった。自分が大嫌いになって、生きることに絶望してしまいそうだったから。
私は、本当はそんなに強くない。一人で生きていけるほど、強くなんかない。苦しい、本当は今すぐ洵の元に行きたい。毎日毎晩、付いていけば良かったって思った。自分の行動に全部責任持って、悩まずに後悔せずに生きていけるほど、強くない。でも、そうでありたいと思うから。そんな自分になりたいから、だから私は追いかけずに、今ここにいる。