ショパンの指先
洵がショパンコンクールで4位入賞を果たしたというニュースを聞いたのは、アマービレで働いてから4か月後のことだった。
日本人がショパンコンクールで入賞するのは、そんなに珍しいことではないらしいけれど、洵のルックスが話題を呼んでイケメンピアニストとして一気にもてはやされた。
洵は海外の音楽プロダクションに所属が決まり、世界で活躍するピアニストになりたいという夢をしっかりと掴み取った。
洵が、どんどん遠い存在になっていく。メディアで洵の名前や顔が出てくる度に、古傷が痛むような鈍い打撃を胸に受ける。
寂しくないと言ったら嘘になる。けれど、洵が活躍しているニュースを聞く度に、これで良かったのだとほっと安堵する気持ちも湧き上がる。
私は、洵が表紙を飾った音楽雑誌をテーブルに置いて、テレビをインターネットに繋ぎユーチューブを再生した。テレビ画面には、ショパンコンクール決勝の模様が映し出される。
厳かなコンサート会場には、満員の観客が座っており、檀上にはオーケストラが挑戦者を待ち構えるように、堂々とした風体で微笑を浮かべていた。そこに、緊張など全く感じさせない颯爽とした歩みで登場した人物は、軽くお辞儀をして椅子に腰かけた。洵と指揮者がアイコンタクトを取ると、オーケストラによる演奏が始まった。
ショパンコンクールは全世界にネットでライブ発信される。まだDVDやCDが発売されていないので、ユーチューブにアップされた少し画像の荒いこの動画を、私は毎日何度も聴いている。
ピアノ協奏曲第1番 ホ短調作品11
厳格なコンサートホールに良く映える、壮大なメロディーだ。約4分半オーケストラによる演奏が続き、洵が鍵盤に指を乗せるとピアノの独演が始まる。
この瞬間、私はいつも背中がゾクっとする。洵の気迫に満ちた演奏は、場の空気を一気に彼独自の世界観へと連れ去っていく。
日本人がショパンコンクールで入賞するのは、そんなに珍しいことではないらしいけれど、洵のルックスが話題を呼んでイケメンピアニストとして一気にもてはやされた。
洵は海外の音楽プロダクションに所属が決まり、世界で活躍するピアニストになりたいという夢をしっかりと掴み取った。
洵が、どんどん遠い存在になっていく。メディアで洵の名前や顔が出てくる度に、古傷が痛むような鈍い打撃を胸に受ける。
寂しくないと言ったら嘘になる。けれど、洵が活躍しているニュースを聞く度に、これで良かったのだとほっと安堵する気持ちも湧き上がる。
私は、洵が表紙を飾った音楽雑誌をテーブルに置いて、テレビをインターネットに繋ぎユーチューブを再生した。テレビ画面には、ショパンコンクール決勝の模様が映し出される。
厳かなコンサート会場には、満員の観客が座っており、檀上にはオーケストラが挑戦者を待ち構えるように、堂々とした風体で微笑を浮かべていた。そこに、緊張など全く感じさせない颯爽とした歩みで登場した人物は、軽くお辞儀をして椅子に腰かけた。洵と指揮者がアイコンタクトを取ると、オーケストラによる演奏が始まった。
ショパンコンクールは全世界にネットでライブ発信される。まだDVDやCDが発売されていないので、ユーチューブにアップされた少し画像の荒いこの動画を、私は毎日何度も聴いている。
ピアノ協奏曲第1番 ホ短調作品11
厳格なコンサートホールに良く映える、壮大なメロディーだ。約4分半オーケストラによる演奏が続き、洵が鍵盤に指を乗せるとピアノの独演が始まる。
この瞬間、私はいつも背中がゾクっとする。洵の気迫に満ちた演奏は、場の空気を一気に彼独自の世界観へと連れ去っていく。