ショパンの指先
「もしかしたら杏樹は、俺は杏樹が側にいなくても大丈夫だって思ってないか? 離れていても大丈夫だったのだからって。そうだとしたら、それは大きな勘違いだ。大丈夫なんかじゃなかった。杏樹のいない人生は、ピアノのない人生と同じくらい空虚なものだ。俺にとっては、空気よりも大切な存在だ。断られても、やっぱり諦められなくて、どうしたら杏樹が俺の元に来てくれるだろうって考えた。それにはピアノで何がなんでも成功しないといけないと思った。だから俺は頑張れたんだよ。なあ、杏樹。頑固なのもほどほどにしてさ、いい加減俺のものになれよ」

 涙が頬を伝っていた。真っ直ぐに伝えられる洵の気持ちは、痛いほど私の胸に刺さった。

「俺の手を取れ、杏樹。もう、離さないから」

 差し出された、筋張った大きな手。大好きな手。

深爪なんじゃないかと心配するほど、いつも爪は白い部分を殆ど残すことなく綺麗に切られている。

鍵盤に届くように幼い頃からピアノの練習をしてきたせいか、指はとても長い。

細く長い指先は色っぽく繊細に見えるけれど、全体の手はとても大きくて男らしい力強さを感じる。

 私はとてもゆっくりと、洵の手に震える自分の手を近付けた。

そして思い切って手を伸ばすと、私の指先が洵の指先に触れた。

                                   


【完】


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