クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由～隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる～

うちの会社が「桐生グループ」が経営する「株式会社 HPJ」だということを忘れていた。
まさか、桐生さんが「桐生グループ」の御曹司だったなんて。


でも不思議だ。
頭を下げる姿には誠実さを感じたけれど、何かが違った。
「この人は本当にあの桐生さん？」、違和感と共に、今度は別の疑問が湧いた。


別人だと思わせるほどに冷静でクールな佇まいが、昨夜との大きなギャプを感じさせる。まだよく知りもしない人だけれど、「優しくて穏やかな桐生さん」ではないことに、少しだけ悲しくなった。


短くて簡潔な挨拶の後、桐生さんは、前の課長が座っていた椅子にスっと腰掛けた。
企画部門から別部署に移った前の課長は、タヌキみたいにコロコロしてお腹もずいぶん出ていたから、見た目でいえば月と何とか……くらいの差があった。