クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由～隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる～

静寂の中に響く悲しい泣き声

エレベーターで上がり、部屋の前まで歩く。
ただそれだけの短い距離が、嘘のように長く感じられた。まるで、足かせでも付けられているかのように足が重い。


「拓弥さん……」


冷たいドアを見つめていても、この前みたいに偶然開くことはないだろう。


大きなため息をひとつ。
私は自分の部屋のドアに手をかけた。


その時だ――
奥のエレベーターが到着した音が鳴った。


「え……」


導かれるように音の方に視線を送ると、完全に開き切る前にわかった。
あれは間違いなく拓弥さんだと――


会いたいと願った人がすぐそばにいる。
そう思うと心が高揚し、体が震えた。


頼りなく佇む私に気づき、驚いた表情でこちらに向かってくる拓弥さん。
私は、美しく動くその姿から、一瞬たりとも目が離せなかった。