クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由～隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる～

君にだけ優しい理由～拓弥side～

今日の商談は上手くいった。
だけど、何かもの悲しい気分が抜けない。
秋の冷たい風のせいなのか――


エレベーターが部屋の階に到着し、ドアが完全に開き切る前にわかった。
そこにいるのは、間違いなく詩穂ちゃんだと――


寂しげに佇む彼女から、一瞬たりとも目が離せなかった。


「どうした？」


ただいまと、挨拶も交わさずにそう尋ねたのは、詩穂ちゃんの頬に残る涙の跡が、俺の心を痛くしたから。


「……拓弥……さん」


名前を呼ばれ、胸が熱くなる。
詩穂ちゃんの切ない表情に、今すぐこの人を抱きしめたいと思う激しい衝動に襲われた。


「おいで」


俺はサッと鍵を開け、部屋の中に詩穂ちゃんと2人一緒になだれ込んだ。


ドアが閉まるのを待てず、俺は包むように優しく詩穂ちゃんを抱きしめた。
ふんわりと香るシャンプーの残り香。
何ともいえない想いが、体中を駆け巡る。