眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛
 また部屋の中で物がカタカタと揺れ出す。そんな状況に、フェインは静かにため息をついた。

「そうだ、お前の言う通り、もうエルヴィン殿下はいない。エルヴィン殿下の亡霊に取り憑かれているのはローラじゃなくてお前の方なんじゃないのか」

 フェインの言葉に、ヴェルデは両目を見開いてフェインを見る。

「ローラは今、お前と出会って前を向いて生きている。でも、彼女が今まで生きてきた中で過去があるのは仕方のないことだろう。お前はローラの過去まで否定するのか?エルヴィン殿下に愛されなかったローラは確かに可哀想だし、百年も眠り続けることになったなんて悲劇以外の何者でもない。それでも、お前はローラに向き合って彼女の絶望を受け止めようとしてきただろう。そしてローラもそんなお前だから一緒にいるんだろうが」

 フェインが言葉を発すると、部屋の中の揺れがぴたりと止まった。

「お前にとってローラの過去は未知のものだし知りたくないことだっていっぱいあるだろ。でも、ローラには絶望的な過去以外にも、家族や友人と過ごした幸せな過去がたくさんあったはずだ。ローラの性格だ、どんな時だってひたむきに一生懸命向き合って生きてきたんだろうさ。それを、その全てをお前は否定するのか?お前がそんなに器の小さい男だと思わなかったよ」

 ふん、と言ってフェインは手に持っていた本を近くにポイッと投げ捨てた。

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