ワケありニートな年下ワンコを飼いました
おまけのおはなし:サイン
 彩女さんが、2冊の本を買ってきた。タイトルは「たそがれの月」――僕の小説だ。

 こんなライト文芸なんて、彩女さんは読みそうにないのに。わざわざ仕事帰りに書店へ寄って、決して目立つ場所には置いていないであろう僕の本を買ってきてくれた。それだけで、泣きそうなほど嬉しい。

「買わなくても、プレゼントしたのにぃ」
「自分で買いたかったのよ。ガクくんの本なんだから」

 ……そんな嬉しそうな顔で言われると、またキュンキュンしちゃうし。
 だけど、こういうところは彩女さんらしいな。義理堅くて、情が深い人なんだよね。

「これ、まだ続きは出るの?」
「3巻以降は、売上次第ですね。芳しくなければ切られます」
「そっか……やっぱり厳しい世界よね」
「そうですね。でも、めげずに書き続けますよ」

 だって、彩女さんが最高の環境を与えてくれているから。これを活かさなきゃ申し訳ない。

 大好きな料理が毎日存分にできて、頑張りすぎずマイペースに働けて、執筆をする時間がたっぷり確保できる。
 改めて考えても恵まれすぎているし、すべて彩女さんのおかげで成り立っているんだから、精一杯尽くさなくちゃ。

「さ、ごはんできますよぉ。着替えてきてくださいね」

 彩女さんはキッチンの入口に立ったまま、なんだかもじもじしている。

「どうかしたんですか?」
「あの……サイン、欲しいなって」
「へ?」

 目を丸くする僕に、本とサインペンが差し出された。
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