ワケありニートな年下ワンコを飼いました
 ガクくんのこの表情を見るだけで、泣きそうになる。私、こんなに涙もろかったっけ。

 最近、本当に頑張っているのを近くで見てきたから。全力でやらなきゃ伝わらないと言って、自分にできることを懸命に取り組んでいたんだもん。この健気な想いが、どうかお父様へ届きますように。

「今朝、帰国して……想定より早く仕事が片付いたから、来てみたんだ」
「そっか。えっと、座ってよ、お父さん」
 
 ガクくんもお父様も、どことなくぎこちない。

「ほら、彩女さんも……って、なんで彩女さんとお父さんが一緒に?」
「お店の前で、お会いしたのよ」
「そ、そうなんだ。そうだ、荷物はここに置いておくね」

 カウンター席の横のスペースに、お父様のスーツケースを転がしていくガクくん。なんだかそわそわして慌ただしい。心構えができていなかったのだから、仕方ないか。
 
「兄さん、いらっしゃい」

 カウンターの奥から、落ち着いた様子でマスターが顔を出した。

「兄さんが連絡もなしに来るなんて、珍しいね」
「急に思い立ったんだ」
「お父さん、なにか飲む? ていうか、なにか食べる? 彩女さんも、お腹空いているでしょ?」
「まだ大丈夫だから。とりあえず落ち着いて、ガクくん」

 私が言うと、ガクくんは何度も頷きながら頬を掻いた。こんなにうろたえている姿は、初めて見たかも。
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