ワケありニートな年下ワンコを飼いました
「奥様、お加減が悪いんですか?」
「あぁ、今朝から少し風邪っぽかったんです。高熱ではないし、大したことはなさそうですけど……」
「早く帰ってあげてください。私も、おいとましますから」
「いやいや。彩女さんは、ゆっくりしていってください。ガク、あとは任せるから」
「分かった」

 マスターはガクくんにいくつか指示をしたあと、店の奥へ引っ込んで、慌ただしく帰り支度をはじめる。
 奥様は妊娠中だったはず。体調が悪いときにひとりきりだと、心細いだろうな。下手に薬も飲めないし。

 そういえば会社にも、つわりがひどくて休んでいる子がいたっけ。私が経験することはないだろうけれど、そういう子も無理なく働ける環境をつくってあげたいとは思っていた。

「バタバタと、お見苦しくてすみません。せっかくの美味しいお酒ですから、彩女さんは気にせず味わってくださいね。またゆっくり、お話しましょう」

 白いTシャツにジーンズというラフな格好をしたマスターが、ペコペコと何度も頭を下げながらお店を出て行った。

 気にせず、と言われても。もともと閉店間際だったわけだし、居座ると武内くんの仕事が終わらないよね。
 急いでウイスキーを飲み干して、私は立ち上がった。
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