ワケありニートな年下ワンコを飼いました
 そうして仕事に集中して、終業時間が近づいてきたころ。ひとりの部下が、声をかけてきた。

「上條さん、ご相談したいことがあるんですけど。少し、お時間をいただけませんか?」

 なにやら深刻な表情。これは、もしかして……。
 人目のあるところでする話ではなさそうだから、とりあえずミーティングルームへ移動することにした。
 
「相談って、なにかしら?」
「実は……退職を考えているんです」

 彼女――井上さんは、沈んだ表情で、そう切り出した。やっぱり。そういう話だと思ったわ。

「付き合っている彼が、来年4月からロサンゼルスへ転勤することになって。それを機に、結婚を考えているんですけど……」

 すぐに「おめでとう」と言えなかったのは、彼女の表情があまりにも暗いから。幸せな理由での退職なら、こんな顔にはならないわよね。

 彼女はとても優秀で、仕事が大好きという感じだったし。ロスなら会社の拠点があるから、退職する必要はないはずなんだけど……。

「彼は、あなたが仕事を続けることに否定的なの?」

 尋ねると、井上さんは目いっぱいに涙を溜めて、震える声で言った。
 
「私は……この仕事が大好きで、ずっと続けたいと思っていたのに……当たり前のように、私が仕事を辞める流れになってしまって……」

 ああ、世の中の「当たり前」や「普通」に理不尽さを感じる子が、ここにもいたのね。どうして「彼の転勤についていく=女性が退職」になるのかしら。
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