ワケありニートな年下ワンコを飼いました
「ロスへのトランスファーも、あなたなら問題ないと思うけど。まずは、彼としっかり話し合ったほうがいいんじゃないかしら」
「そう……なんですけど……正直、怖いんです。全部否定されたら、どうしようって。それならいったん退職して、落ち着いてからリスタートするって選択も……」

 否定されて、結婚もなかったことになってしまったら……そう考えると怖いのね。井上さんの気持ちは、痛いほどよく分かる。

 なんとかしてあげたいけれど、ふたりで話し合って結論を出してからでないと、私は手出しできない。どうか、勇気を出して話をしてほしいと思った。

「……独身の私が言っても、説得力はないかもしれないけれど。夫婦になるって、問題が出てきたときにきちんと話し合って、ふたりで前に進んでいくってことなんじゃない?」

 私は、自分の両親を思い出していた。

 深刻な雰囲気で話し合うことはあったけれど、両親は私や兄の前で言い争う姿を見せたことはない。きっと、感情的にならず冷静な会話を重ねていたんだと思う。

 夫婦って、そうやって折り合っていくものなんじゃないかな。私には縁がないだろうけれど、そんな両親の姿は、ある意味で理想の夫婦像だった。

「いずれにしても、どちらかが我慢したままだと、どこかでひずみが出てきてしまうわよ」
「……はい」

 何度も小さく頷く井上さん。私に言われなくても、分かっているのよね。
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