ワケありニートな年下ワンコを飼いました
「トランスファーの希望を出すにしても退職するにしても、お互いの気持ちを話して、納得したうえでしたほうがいいと思うの。あなたがどの道を選んでも、私は全力でサポートするから、安心して」
「……ありがとう、ございます……」

 よほど思い詰めていたのか、井上さんは大粒の涙を流しはじめる。
 そのあと、彼女が落ち着くまで、しばらくそばにいてあげた。人生の大きな岐路だし、不安はたくさんあるのだと思う。

 結婚や出産を機に、キャリアを中断しなければならなくなる女性は多い。
 ある程度は仕方がないことだけど、変化のスピードが早いこの業界では、ブランク後の復帰はかなり大変だと聞いている。私が結婚したいと思えないのは、それが大きな理由だった。

 それでも彼女には、なにも諦めてほしくない。結婚も出産も、コンサルとしてのキャリアも。
 そのためにサポートできることは、なんでも協力したい。

 ロスへのトランスファーについて、ひとまず向こうの責任者に事情を伝えておかなくちゃ。あっちはいま夜中だし、メッセージだけ送っておこう。

 ロスオフィスの責任者とは顔見知りで、とても親身になってくれる人だから、きっと大丈夫。あとは彼女がどういう決断をするかよね。いまの私にできるのは、ここまでだわ。

「……これでよし、と」

 そこでようやく時計を見て、思わず声を上げる。ちょっと待って。もうとっくに、19時を過ぎているじゃない。
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