Phantom

愛のプロフィール


 死人に口なし、とはよく言ったものだ。

 零の口が閉ざされたあのとき、おれに一世一代のチャンスが巡ってきたはずだった。それなのに、何もうまくいかないまま、時間にすら置いていかれた。


 睡眠薬が効き始めたのか、しばらくすると睡の意識は夢の中に沈んだらしく、彼女の寝息が聞こえてくる。

 眠ることにご執心の彼女は、家主のおれのベットを我が物顔で使う、図太い女だ。そういうところが憎い。憎いし、恨んでるし、不幸になってほしいけれど、どうしたって嫌いになれないから最悪だ。

 深くブランケットを被る彼女の頭を撫でてみる。彼女は眉間にしわを寄せた。眠っていても、おれに触れられるのが嫌なのは相変わらずらしい。


 双子の兄、今在零のことを思い出す。

 たまに一卵性だと間違われるが、おれと零は二卵性双生児だ。遺伝子の一致度は50%。兄弟のそれと同じ。

 顔立ちはそこそこ似ているが、性格が全然違う。比較的快活でいわゆる体育会系のおれと比べて、零はおとなしかったし、文化系の分野で才を発揮していた。

 同じ高校には進学したけれど、互いに関わりを持つ友人も、生き方も、得意な教科でさえまったく異なっていた。

 シンメトリーなアシンメトリー。顔は似ているが、それ以外は全然違う。趣味も嗜好も、生き方も。

 だからそれは、哀しき遺伝子の罠だった。

 ——零とすきな人が、ぴたりと一致してしまったのである。




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