Phantom
ナルシスは変われない
ミステリー小説で双子を登場させたならば、入れ替わらなければならない。そうでなければ、双子を出した意味がない。
そんな言葉があるらしい。
誰が教えてくれたんだっけ。まあ、どうせ零だろう。彼はいつもあたしの知らないことを教えてくれた。
「あたしね、つまんなくて痛い女の子だったの。みんなと同じようにしか生きられないくせに、みんなと違う特別な存在でいたかった」
触れられたくないところに触れられるのは、どうしようもなく痛い。
だけどもう、このままではいられない。詠は、あたしの部屋に本が少ないことを知っているだろうから。
いつまでもこの歪んだ関係を隠し続けることができないと、あたし自身もどこかで理解していた。
心中に失敗して、零だけが死んだとき、零はあたしに手紙を充てていたらしい。
あんなに零の面影を追っているのに、見たいとは1mmも思えなかった。だって、怖いから。あたしはいつだって、傷つくことをおそれている。
詠が何かを待っている。話すまで睡眠薬をくれないという、脅しに見えない脅しはどうやら本気らしい。
それならばはやく話して、噛み砕いた星屑を飲み込んで眠ろうか。いつか、零のところに行けることを夢見て。