Phantom
言葉の意味を紐解いていくうちに、自分の罪がより明確になった。あたしの罪は、零を愛したことだけじゃない。
零を殺した罪だ。これは、原罪よりも重い罪。
たとえば、あたしが高校のとき、零に近付かず、詠を一途に想い続けていたら。いつかあたしと詠は結ばれて、零の気持ちを弄ぶことなく、そして零と交わることもなく、ふつうに、かつ順当に日々を過ごして、無事に高校を卒業し、零は別の未来を歩んだかもしれない。
——あたしが、自分勝手に目先の快楽に飛び付かなければ。詠に近づくために、零を利用しようとする愚かな真似をしなければ。
零は、死なずに済んだかもしれない。
「……詠、教えて。あたしは、どうして置いていかれたの?」
「零がおまえに、自分の存在を刷り込むため」
「なに、それ」
「“ぼくはやっぱり、あなたにとって忘れられない人でありたい” そう書いてあったって、言えば満足?」
言葉がかかえる語気は真実味を帯びていた。その意味は、零から向けられた致死量の独占欲。
愛されていた。それだけがわかって、やっぱり死にたくなった。
「あたしのせい?」
「は?」
「あたしのせいじゃん。零がいなくなったの」
ほら。だって、あたしが私欲のために零に近付いたから。詠のことが好きだったくせに、かんたんに零に絆されてしまったから。関係を曖昧にして零に抱かれたから。「ちょっとだけ死ぬのがこわい」なんて馬鹿げたことを言ったから。
零は、あたしと心中することよりも、忘れられない記憶を植え付けてあたしだけを生かすことを選んだ。目論見どおり、あたしはずっと、零の呪いに囚われている。夢見睡が今在零に囚われる呪いと、眠れぬ夜に裏切られる呪い。
人を呪わば穴二つ。強力な呪いの代償として、彼は命を落としたのだろうか。だとしたら、重いよ。ますますあなたのことが忘れられなくなる。