Phantom
言葉と行動の重さを自覚するとますますこの世界で生きていく気がしぼんでいく。
「はやく薬を頂戴」
「……」
「はやくして、お願いだから」
強くしたはずの語調はなぜか震えていた。はやく意識を飛ばさないと。夢の中で、零に会わないと。
詠はあたしの声なんか聞こえていないみたいだ。彼の、虚とした視線が宙をゆらめく。あなたはずっと、あたしを傷つけることばかりが得意だ。
「零は、知ってたとおもう。おれが、おまえのこと好きだってこと」
「やめて」
「だから零は、自分がおれよりも優れてるって、そう示すために、」
「やめてってば!!」
薬をはやく飲まないと。夢の中で、零に会って、「こんな現実なんか棄てていいんだよ」って、伝えてもらわないと。
思い出したくなかった。零が図書室で、焦るようにあたしを抱いたこと。見ないふりをしていた零の裏側に今更触れたって、彼はもう戻ってこないのに。
睡眠薬を脅しに使って、あたしを傷つける詠なんて、最低最悪の悪魔だ。楽園を壊したのはあなただ。はやく消えてしまえ。
「こんなの、知りたくなかった!! こんなこと今更話して、詠は何をしたいの!?」
「……おまえに、現実見てほしいの」
ぐわ、と物体の輪郭が不明瞭になる。鼻先から目頭に向かって登っていくツンとした不快感で、自分が泣いていることを理解した。
それと同時に、詠の苛立ちを含めた表情が眼前に広がる。いつの間にかベッドに上がってきた詠が、あたしの上に跨がっていた。