Phantom
前戯にしては乱暴で、暴力にしては甘かった。意味がわからないだろうが、これこそがありのままの真実だった。
「あたしのこと抱くの?」
諦めに似た言葉を発すると、詠は何度か瞬きをする。
「零が死んでから、おまえは零の面影を持つおれのせいで、ずっと痛がってた。おれは、何度引き留めたって零の後を追いたがるおまえを見て、何度だって傷ついた」
ヤマアラシのジレンマだ。お互いの体表に針のあるヤマアラシは、互いに寄り添いたくても、近づきすぎると針山で相手を傷つけてしまう。
いまのあたしたちはそれと何が違うのだろう。相手を傷つけるとわかっていながら、それでも抱きしめ合おうとするこの空間に、生産性など何もない。
何も言わずに考え事をしていると、詠がゆっくりと息を吐き出して言う。
「おれは傷付く覚悟ができてる。あとは、おまえを地獄に落とすだけ」
「……」
「おれの中に、零の幻を見ればいい。おれは、それで十分だから」
聞き覚えのあるセリフに戦慄する。あなたたち、そこまで綺麗に入れ替わらなくてもいいだろうに。
「いいよ。それで詠の気が晴れるなら」
「零以外には塗り替えられないっていう、自信?」
「もう、わかんない……」
ぐずぐずと煮詰まったあたしの欲望に、詠が気づいていないわけがなかった。もしかしたら、抵抗できないんじゃなくて、抵抗するつもりがないのかも。
これは、あたしの罪。あたしは、双子の遺伝子に囚われたどうしようもない人間だった。それだけが事実として存在している。零はきっと、あたしのことを蔑むだろう。
詠は、おそろしいくらいに淡々と行為を進めていった。凹凸をぴったりと組み合わせるだけの、簡単すぎる行いには、意味なんて見出さない方が幸せだ。
詠に抱かれたとき、零だけに捧げた貞操が意味をなくした物悲しさをかかえていたのに、そこには確かに快楽が潜んでいて、どうしようもないな、と思った。