Phantom
負の記憶が全身にほとばしる。おれは足元に転がる睡の表情と、その姿をよく覚えていた。
睡は目を柔らかく瞑って、フローリングの床に、気持ちよさそうに倒れている。こんなに安らかな顔をする睡を久しぶりに見た。つまり、忘れもしないあの秋の日、息のない零と固く手を結んでいたときの顔にそっくりだった。
彼女が本当に眠っているだけなのだとしても、硬い床で倒れるように眠るわけがない。絶対に、何かがおかしい。
部屋の中を見回す。
目についたのは、大量の睡眠薬のシート。
——思い出してしまった。
「睡、起きろって!」
細々と病院に行くのが面倒だという理由で、睡がいつもより多めに睡眠薬を処方してもらっていたことを。
ローテーブルに置いてあるグラスは、中がもうカラカラに乾いている。時間の経過を感じ取り、血の気が引いていく。
考えたくない。信じたくない。たった一夜、連絡を怠ったその日に、ピンポイントでこんなことが起こるなんて。
「睡!!」
肩を揺さぶる。図書準備室で彼女の肩を揺すったときよりも、ずいぶんと強くしているはずなのに、彼女はまったく動く気配を見せない。
零が死んでから、何年も、睡を零のところに行かせてたまるかと思って、毎日毎日、神に祈るように彼女を生かしてきたというのに。
がらがらと積み上げてきたものが崩れていく感覚に、足を取られて転げ落ちた。言うなればそんな感じで、かなしくて、どうしようもなくなって、おれは呆然と、彼女の純朴な表情を眺めていた。