冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 咲穂はチラシを手に取り、眺める。六本木にあるギャラリーで開かれる個展のパンフレットのようだ。開催日程は今日からの三日間。画家の名前は……滝川翠。

「彼女、その個展のために今は日本にいるみたい。それでね」

 続きを聞く前から、彼女がなにを言おうとしているのがなんとなくわかってしまった。

『明日は仕事じゃなくてプライベートだから』

 ゆうべの櫂の言葉が耳に蘇る。

(もしかして……)

「櫂さん、初日の今日、そこに行くそうよ。秘書室の前で大川さんと話をしているのを聞いたから間違いないわ」

 想像したとおりの台詞を梨花が言った。

『大川さん』は櫂の秘書を務めている男性だ。秘書室勤務の梨花が近くにいたのは、そうおかしなことではない。

「多忙な櫂さんがわざわざ初日に顔を出すってだけで十分な証拠になると思うけど……せっかくだから、あなたも行ってみたら?」
「――結構です」

 咲穂はチラシを突き返す。だが、梨花は受け取らない。

「そんなこと言わずに。ふたりが一緒にいるところ見たら、きっと理解できるはずよ。自分がいかに、彼にふさわしくないかをね」

 どうして彼女にここまで言われなくてはいけないのだろうか。さすがに咲穂も腹を立てて、キッと彼女をにらみ返す。

「梨花さんはなにが目的なんですか? こんな話をして、私に身を引けと言いたいのでしょうか。でも、それであなたはなにを得るんでしょう?」

 梨花の嫌がらせはなんだか回りくどく感じる。おそらく、彼女の目的は夫である潤が美津谷の後継者に選ばれること。だから櫂の足を引っ張りたいのだろう。

(でも、私へのこれはなんの意味があるの?)
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