第一幕、御三家の桜姫


「ていうか、鹿島くんって結局見たことないんだよなあ」


 目的のファイルを手に入れた後、空っぽの生徒会長の机を見ながら首を傾げた。蝶乃さんとベストカップル賞をとるくらいだからイケメンなんだろうけど、いかんせんこの学校では顔といえば御三家が席巻(せっけん)している。まあいいんだけど、どうせコンテストで見れるし。


「遼くーん。ファイルゲットしたよ」

「ん」


 桐椰くんが扉の鍵を閉める、その様子を見ていてふと思い当たることがあった。


「……ねぇ、その鍵って透冶くんが持ってた鍵?」

「ああ、そうだよ。言わなかったっけ」

「言ってないよ」

「そうだっけ」


 心の(こも)らない返事をしながら、桐椰くんはその鍵を軽く握りしめた。


「……遼くんは、何か知ってるの?」

「何が?」

「……透冶くんの事件で。松隆くんと月影くんが知らないこと、知ってるの?」


 桐椰くんの鋭い瞳が素早く私を射抜いた。一瞬、心臓が飛び上がる。


「……なんでそう思う?」

「え……だって……」ドクドクと心臓は早鐘(はやがね)を打ち始め「透冶くんのことを話すとき……ちょっと、変じゃん……」

「……どこが?」

「……目、とか……?」

「…………」


 桐椰くんの目が殺意にも似た光を失わないまま、思考を(まと)めるように彷徨(さまよ)う。その口がもう一度開かれたとき――ピンポーン、と無機質な校内放送が響いた。

――二年四組、桜坂亜季さん。担任の金山先生がお呼びです、職員室に来てください。繰り返します――

「あれ、呼び出し……」

「……お前何したんだよ」

「何もしてないよ! しいていうなら何かやってる御三家に従ってるだけだよ!」

「……んじゃ、俺がファイル預かるから。職員室行ってこいよ」


 ひょいと、桐椰くんは私の手からファイルを取り上げた。遮られたのが好都合だとでもいいたげに、足早に私の前から去って。

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