第一幕、御三家の桜姫
職員室へ向かいながら桐椰くんの態度に首を捻る。あんなの、透冶くんの事件について何か知ってると言ってるようなものだ。それを松隆くん達は知ってるのだろうか――。
「失礼します……二年四組の桜坂です」
「ああ、桜坂、呼び出して悪かった」金山先生はすぐに扉のところまでやってきて「授業料減免措置の書類を渡したかったんだ」
差し出されたクリアファイルには言われた通りの紙が入っていた。
「申請書類自体は受理されたからな、第二考査でまた十位以内に入れば申請も受理されるぞ」
「ありがとうございまーす。では私はこれで……」
御三家に関わることで怒られなくて良かった、そしてそのことに言及される前に早く逃げよう、と軽く頭を下げたのだけれど「ああいや、あともう一つ」と引き留められてしまった。
「……なんでしょう?」
「えーと……」
金山先生は切り出し方を悩むような顔つきになり、声のトーンを落とした。
「……桐椰と……その、交際してるというのは……?」
瞬間、ゲッと自分の表情が引きつりそうになるのを感じた。やっぱり御三家のことで怒られるんだ。でももちろん、咄嗟には恥ずかしがって見せた。
「えー……なんで金山先生まで知って……」
「いや、それが生徒達が話してるのを聞いて……」
「男女交際って花咲で禁止ですっけ?」
「いや、そういうわけじゃないが……その、桐椰と……七組の松隆と一組の月影は知ってるだろう?」
「あ、はい、知ってます」
その三人の下僕ですとはこの真面目な先生に言えなかった。
「その……その三人には先生達も手を焼いててな……こんなことを生徒に頼むのも情けないが、桐椰を通して松隆達も説得してくれたらと……」
「説得って……何をですか? 御三家――松隆くん達ってそんなに色々悪いことしてるんです?」
確かに生徒会に敵対してはいるけど、それだけでは? 月影くんに至っては成績もトップだし、先生達には何の不利益もないはずだ。
そんな正直な気持ちでキョトンとしてみせたけれど、金山先生は難しい表情で腕を組む。