第一幕、御三家の桜姫
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「だからその徽章はさながら語りかけてくれるわけだよ。生徒会役員は透冶が死んだときすぐ傍にいた──つまり透冶を突き落としたんだってね」
「……じゃあ、自殺って可能性は」
「それも拭えないよ。だったらどうして徽章が傍に落ちてたんだって話はあるけどね」
「……その徽章を見つけたのは?」
「……俺だよ」
また、桐椰くんが答えた。
──不意に、僅かな疑問が過る。徽章を落とした生徒会役員は、自分の徽章を探しに行かなかったのだろうか。その徽章は、透冶くんの死に関わったことを示す何よりの証拠となるのに。そして、幼馴染の死体を見つけて少なからず動揺したはずの桐椰くんは、容疑者ともいうべき生徒会役員より早く冷静に屋上に行き、状況を確認したとでもいうのだろうか?
ついさっき、幼馴染の死体の第一発見者となった桐椰くんに同情した私の心に暗雲が立ち込めるようだった。もし、桐椰くんのあの表情が、透冶くんの死に関わったからこその表情だとしたら──。
「俺達も、透冶の事件について知ってるのはこのくらいだ」松隆くんはそう締め括りながら「ただ少なくとも、生徒会役員の徽章があったっていうのに知らぬ存ぜぬで話を通そうとする生徒会には裏があるに違いないというわけ」
「……そっか」
透冶くんの事件に奇妙な痕跡ばかりあることは分かったけれど……むしろ、桐椰くんに対する疑念が深まった。でもきっと私の考え過ぎだろう。
そして、そんな生徒会の裏を探る鍵は、文化祭の予算。
「……文化祭はお金が動くって言ってたっけ? 何にいくら遣ったかとかもう分かってるの?」
「あぁ」
反語のつもりで訊ねたというのに、月影くんは黒いファイルを差し出してくれた。お早いお仕事で……。重たいそれを開けば、各クラス・部・委員会の出し物、その他有志、生徒会による全体企画、などなど、目次を見るだけで目が痛くなるほどの項目が並んでいた。
「……このファイルはどこから」
「生徒会室にはまともな生徒会役員が残っていないからな。借りる絶好のタイミングだったというわけだ」
うーん、やはり見張られるべきは御三家だったのではないだろうか。そんな気持ちでページを捲っていく途中、各クラスに配分された予算の単位に気付いて手を止めた。
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