第一幕、御三家の桜姫
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「……あの三人は、透冶くんの死を理由に繋がってて、そして、あのお互い以外に繋がってる相手がいない」
「ああ。彼らは互いに雨柳の死を悼みながら、互いに雨柳の死の責任を忘れさせない、最悪の三つ巴だった」
だから誰でもいいから第三者が必要だった。あの三人の、呪いのような絆の間に入ることができる、何も知らない、何も関係のない誰かが。
その意味では、確かに私と一緒にBCCに出る必要があったのだろう。もし私が御三家の下僕となっていなかったら、鹿島くんから私を指定していたのかもしれない。
「……じゃあ、BCCは御三家のためにあったんだ」
「生憎、俺はそこまでお人好しじゃない」
BCCが用意された最大の謎、その答えを見つけたと思ったのに、鹿島くんは鼻で笑った。
じゃあ、一体何のために──?
鹿島くんは口角を吊り上げる。そのまま一歩、私に向かって踏み出した。
「それはね、君と御三家に仲良くしてもらうためだよ」
「……え?」
鹿島くんはもう一歩、私に近づく。
「なぜなら――……」
耳元で小さく囁かれたその理由に、私は目を見開く。それは。
「じゃ、ばいばい」
「ちょ、っと待って! 今の何で――」
「御三家が出て来るみたいだ。そう狼狽えないで、いつもの様子で迎えてやれよ」
焦燥を隠し切れずに呼び止めようとしたその手は空を切る。走って肩でも掴みたかったのに、背後で扉を開けようとする音がする。鹿島くんは狙ったように、ふ、と笑って、誰もいない闇夜に紛れた。
ガタッ、と第六校舎の扉が開く。振り向いたそこには、きょとんと目を丸くする松隆くんがいた。後ろには当然月影くんと桐椰くんもいる。
「あ……」
「待ってたんだ? 悪いね、遅くなって」
「ううん……」
三人は私なんて待たずに勝手に歩き出したけれど、桐椰くんが振り向いて「送ってやらねぇぞ」と言うから慌てて追いかけた。松隆くんと月影くん、桐椰くんと私がそれぞれ横に並んで歩く。