第一幕、御三家の桜姫
第六校舎の裏の、庭で。
「約、四カ月か」
ゆっくりと屈み、総が花束を地面に置く。他に置かれているのは、すっかり砂に塗れてしまった缶ジュースと、雨風に晒された板チョコの箱。
「……おばさんとおじさんと、連絡を取ったんだ」
四カ月経って漸く見つけた、透冶の手記らしい手記。話しかけるように、総が手紙を取り出した。
「謝られたんだ。俺達はお前が死んだ理由で自分達を責めてしまうくらい子供だと思ってたって。蓋を開けてみれば、おばさんとおじさんが必死に隠そうとした理由を、どんな手段を使っても知ろうとするほど、もっと子供だったってわけだ」
幼馴染の俺達が、透冶の死んだ理由を知らないでいいと言われていた理由。誰よりも透冶と仲の良い友達が、透冶がいなくなっても今まで通り過ごせるようにと隠された事情。透冶がいなくなった今、“今まで通り”なんてあるはずもないのに。でも、そう思われるほど、俺達の透冶への気持ちは信頼されていた。
「……この手紙、俺達が持ってていいそうだ。ありがたく、いただくよ」
透冶は、おじさんとおばさんに宛てた手紙は別に遺していた。旧生徒会室にあった手紙は、正真正銘俺達三人に向けられたものだった。だから、新しく手紙を見つけたと伝えて、すぐに中身も見せたけれど、手紙自体は俺達の手元に返ってきた。どこにあるべきものなのか、そんなのは中身を読めばすぐに分かるからと。
「……遼、駿哉」
だから、その手紙は、第六西の教室で、そっと仕舞われることになった。
「俺に黙って悩み事抱え込んだら、赦さないからな」
きっと、透冶のことだから、一人で部屋で沢山泣いてたんだと思う。昔から、虐められたらすぐに泣いていたから。昔から、透冶は何かとよく泣かされていた。怒るのはいつも俺と総で、でも相手は専ら上級生だったり大人だったりするもんだから、敵わなくて、泣くのを我慢しながら戻る羽目になっていた。そんな俺達を見て、駿哉が馬鹿にしたような目を向けながら、そろりとお菓子を差し出していた。
何度も何度も繰り返した、その光景。馬鹿らしくて、恥ずかしくて、そんな記憶塗りつぶしたいと何度も思ったのは、俺だけじゃない。幼馴染ってことはお互いの恥ずかしい記憶も全部共有してるってことだよな、と四人でお泊り会をしていた夜に総が呟き、全員でギョッとした覚えがある。
「……お前こそ、泣きたくなったらすぐ言えよ。いつでも黒歴史にしてやるからな」
そんな、何度も何度も、忘れてしまいたいとか、なかったことにしたいとか、四人で頭を抱えた、馬鹿みたいな光景を。二度と見せることなく、透冶はいなくなった。悩みに悩んだくせに、泣き顔を見ることはなかった。