拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない
 ひとり残された私に、あちこちから視線の矢が刺さる。
 きっと三角関係の修羅場の末、私が振られたのだと思われているのだ。

 この状態からすぐにでも逃げ出したいのに、ひざが震えて立てそうにない。

『誰もすきになれないのは心が貧しい証拠』

 長澤さんの言葉はまるで細く長い針のように、私の胸をひと突きにした。

 その通りかもしれない。
 生まれてから一度も誰かをすきになったことがないなんて、おかしいことだと自分でもわかっている。

 思春期の頃は、周りの子達が恋愛のことで騒いでいるのを見ながら、自分もいつかそんな相手ができるのかもと思っていた。けれどその後、高校大学を経て大人に近づいていくうちに、男女交際どころか初恋すらまだだという事実が、異端であることに気がついた。

 これまで異性と付き合うチャンスがまったくなかったわけじゃない。告白してくれた人とふたりで出かけてみたこともあったけれど、どんなに努力しても相手と同じ気持ちにはなれなかった。

 中途半端な態度は余計に相手を傷つけるだけだということを学んだ私は、以降、男性から誘いは迷わず断るようになった。そうすると大抵彼らはあっさりと引いていった。

 けれど長澤さんは何度断っても引かず、『友人として仲良くしてほしい』とさえ言ってくれた。今となっては、その言葉を信じた自分の愚かさが恨めしい。

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