拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない
 唇を噛んでうつむいていると、さっきグラスを片づけてくれたスタッフが同じカクテルを持って来た。ほとんど飲んでいなかったせいだろう。同じものをサービスしてくれた。

 本当は飲みたくて頼んだわけではない。せっかく人気のレストランバーに来たのだから一杯くらいは飲んでみてはと、長澤さんに勧められて注文したのだ。
 けれど、お店の厚意を無にするのも気が引けて、お礼を言って受け取った。

 逆三角形のグラスには、クリーミーな泡が乗ったチョコレート色の液体がなみなみと入っている。口をつけると香ばしい香りが鼻に抜け、口当たりがクリーミーとほのかな甘みで飲みやすく、一気に半分をのんだ。

 ふうっと息をついて窓の外に目をやると、いつの間にか雪が降りだしていた。立春はすぐそこだというのに、寒さはどんどん厳しくなる気がする。
 三階から見下ろした歩道には、身を寄せ合ったカップルや親子連れが行き交っている。

 彼らはどうやって出会って、お互いを好きになったのかな……。

 みんないったいどうやって恋をしているのだろう。誰かをすきになるって、どうしたらいいの? そもそも私には、恋というもの自体がわからない。

 考えれば考えるほど、途方に暮れたような気持ちになる。

 大理石の床にこぼれたドリンクはきれいに拭きあげられて跡形もないけれど、私の胸の中には染みが広がったまま。いったいどうすれば、きれいさっぱりなくなるのだろう。

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