Sana ∞ Ayato
友達関係
遡ること1年半前──。
「ア~ヤト」
楽しげな声が俺の名前を呼ぶ。
中学校の校舎の2階の階段の踊り場。段差に足を掛けようとしていた俺の腕に先輩が飛びついてくる。柔らかい重みが腕にのしかかって、女物の花っぽいコロンの香りが辺りに広がった。
俺の名前を呼んだのは魔性の女だと有名な3年の先輩。出るとこ出て、ぷっくりとした唇と泣き黒子が特徴的な先輩は中学生とは思えないくらい色っぽい。
1回だけ流れでキスされたことがある。ただし、名前は忘れた。何回か遊んだはずだけど。
「どこに行くの?」
「えー。内緒」
「教えてよ」
立ち止まった俺に満足そうに微笑む先輩。にっこり微笑み返すと、腕に胸を押しつけて項垂れかかってきた。
柔らかい。ってか名前……何だっけ?さすがに何回か遊んでて“忘れた”は、やばいよな。散々、美人だとか可愛いだとか言いまくってただけに困る。
「友達のところだよ」
「友達って?ショウ君?」
「かな」
若干、焦りつつ首を傾げてヘラヘラと笑う。こういう時は笑って誤魔化すに限る。で、さっさと逃げちゃえ。
「いいなー。たまにはノゾミとも遊んでよ。もうすぐ卒業なんだからさ」
魔性の女ことノゾミちゃんが拗ねたように頬を膨らます。
あぁ、そっか。ノゾミちゃんだ。そういや、新幹線と同じ〜とか思ってたわ。しかし、遊ぼうと言われても今日は正直、気分が乗らない。女の子と遊ぶよりも友達と騒ぎたい気分なんだよな。
「あー、今日は……」
言葉を濁した瞬間、窓の外に夕陽を浴びてキラキラと輝く金色の髪が見えた。
サナだ。1階の花壇の隅でぽつんと座り込んでる。あーんなところで1人で何やってんだろ?あいつ。
「ノゾミちゃん、ごめん。俺、友達とカラオケに行く約束をしてるから」
「えー」
「ごめんね~。また今度」
不機嫌そうに眉を寄せるノゾミちゃんの腕からすり抜けて愛想笑いを浮かべる。
じゃーね、なんて手を振りながら俺はそそくさと階段を下りてサナのところに向かった。