ぼくらは群青を探している
 とはいえ職員室へ行くのは雲雀くんとの付き合いを咎められた (?)日以来だから、先生達の視線はちょっと気になるところだ。……でも先生達の視線なんてものに私が気が付くわけないのだから関係ないといえば関係ない。

 そんなことしか考えていなかったのに、いざ職員室へ行くと「あー、三国ちゃんじゃん」と職員室前で視線どころか声をかけられた。なぜか九十三先輩と蛍さんが、職員室前の机に横柄な態度で座り込んでいる。三人掛けの真ん中が空いているし、その机の上にはプリントと筆記用具が置かれているし、真ん中には先生が入って補習かなにかをするのだろう。


「……こんにちは」

「あ、ちょうどいいや、三国ちゃんでよくね?」

「教えるのはイヤです」

「え、なんで」


 だってこんなに人が通るところで、群青の三年生の先輩達に勉強を教えるなんてそんな……気まずいことを。首をふるふると振って「とりあえずプリントを出してきますので」と職員室に引っ込んでから廊下に出ると、その隙に、空席には能勢さんがいた。ただ、椅子には座らずに立ったまま机に手をつきプリント覗きこんでいる。


「だから、キリスト教は一度結婚したら離婚できないんですよ。だったらそもそも結婚したなんてことはなかったことにすればいいという発想が出てきたわけで」

「マジかよ、ヘンリ八世ヤベーヤツだな。てか兄貴の嫁寝取るとかやべーよなー」

「寝取ってねーだろ、先に兄貴死んでんだろ」

「父親のヘンリ七世が再婚させたんですよ」

「気狂ってるよな、つかこのキャサリンかわいそー」

「コイツが離婚したがらなけりゃ俺らが余計なこと覚える必要もなかったってわけだな。やっぱ離婚ってよくねーな」


 多分、世界史の補習だったのだろう。まだ習っていないので知らない話だったけれど、世界史の話に違いなかった。なんなら蛍さんの感想は「そこじゃなくないですか?」なんてツッコミを入れたかったけど黙っておいた。

 能勢さんは私に気が付いて顔を上げ「あれ、また雲雀くんとの関係で呼び出し食らったの?」と笑む。この人も、結局疑う必要のない人だったな……。


「いえ、今日はただの日直で」

「お前そんな呼び出し食らってたのかよ」

「永人にその話しなかったっけ?」

「あー……したかも」

「てか雲雀くんのピアス、新しくなかった? あれ三国ちゃんからの誕プレ?」


 ……目敏いな、能勢さん。桜井くんは何も言わなかったというのに。お陰で九十三先輩と蛍さんまで「え、なになに、何の話」「今すぐ座れ、報告しろ」と空席の椅子を引く。そんなところに座るわけがない。


「……いえ、昨日が雲雀くんの誕生日だったので、プレゼントにピアスをあげたというだけの話で」

「ピアスあげるってなんかエロくない?」

「何がどうなってそんなことになるんですか……」

「でもそっかー、ピアスかー。ま、いんじゃない、三国ちゃんの処女あげるとかより全然いいよね」


 ハハッと笑った九十三先輩の頭がゴンッと蛍さんの手で机に押し付けられた。さすがの能勢さんでさえ白い目を向けている。実際九十三先輩の発想は突飛過ぎて、神経間の情報伝達が上手くできていないのではないかと疑うレベルだ。


「誕生日っていえば」とりあえず話題を変更しようとしたのか、能勢さんが視線を蛍さんに向けて「永人さんも来月ですよね、誕生日。何かします?」

「え、そうなんですか?」


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