ぼくらは群青を探している
私のことを、三年生の誰が知っていてもおかしくなかったけれど、二年生は知らなかった。蛍さんが私のことを知っててどうのこうのなんて話は、いま三年生の先輩達が一年生のときにして終わっていて、二年生の能勢さんは結局知り得なかったのだ。荒神くんが蛍さんに新庄の一件を報告したとしても、蛍さんがそれを他の群青のメンバーに仔細に話すかは別の話だ。
「というか、結構俺は焦ってたんだよね。ほら、三国ちゃん、群青メンバーのリストを見てOBの名前を覚えたって言ってたでしょ? その文字列を一瞬で覚えるってことは、ヤバイくらいの記憶力があるってことじゃん? で、三国ちゃんが拉致られた赤倉庫、あそこに俺の煙草の吸殻が残ったままだったからさ。銘柄覚えられてたらどうしようって。ちゃんと捨てといてって新庄に言ったのに、ああいう詰めは他人任せにしちゃだめだよね」
赤倉庫で、新庄とその仲間が座っていたソファ、その前にあったサイドテーブル。そのサイドテーブルの上の灰皿は煙草の吸殻で一杯だった。でも、新庄以外の人間は誰も煙草を吸っていなかった。遣り取りを聞く限り、あの日あの場所にいた人達はみんな新庄より立場が下だった。だから新庄の前では煙草を吸わなかったのだろう。
そして、美人局を嵌めようと画策していたあの日、雲雀くんは、煙草の吸殻が二種類あったと言っていた。つまり、赤倉庫で煙草を吸っていた人間は二人いた。
新庄以外にもう一人、煙草を吸う人がいた。そしてその人は、立場が新庄と同じか、上。
そして、新庄と能勢さんは、二人とも北中学の出身で、接点を持つ機会はたっぷり二年間あった。
どうして、見落とした。あんなに疑ってたのに、蛍さん達の話を素直に聞いて、大雑把な認識をして、安心しきって。こんなにもたくさんあったヒントを、どうして私は見落とした。どうして。
ラーファーソードー……と昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り始めた。私の焦りなど意にも介さないかのように、一定のリズムをゆっくりと刻む。
そしてそれは、能勢さんも同じだった。その顔はいつもどおりだったけれど、秘密を暴かれた側ではなく、秘密を暴露した側特有の余裕の笑みを称えているように見えた。
「さて、詰めの甘い三国ちゃんに問題です」
短くなった煙草を携帯灰皿に押し込みながら、甘いマスクが、まるで恋人に向けるもののような優しい微笑を浮かべる。
「夏祭りで写真を撮られたとき、カメラの起動音がしたかどうか、覚えてる?」
カメラの、起動音……? 茫然としたまま、意味と記憶を探る。
新庄はデジカメを拾い上げ、デジカメに私の写真が映っているかのような態度をとった。だから桜井くんはデジカメのSDカードを抜いて壊した。
「ね、三国ちゃん。デジカメって起動音があるよね。電源を入れるとピロリンって音がするよね」
能勢さんは指を動かして、デジカメの電源を入れるような仕草をしてみせた。
知っている。デジカメを起動すると音がする、奇しくもつい三日前に実証したばかりだ。なんなら、格納されているレンズが出てくるときにも音がする。起動音やシャッター音は設定で消すことができても、レンズが物理的に出てくるときの音を消すことはできないだろう。
自分が圧倒的に視覚優位であることは自覚している。ただ、相対的な問題とはいえ、耳で聞いたことも他人よりはずっとたくさん覚えているほうだ。
その、他人より多い耳で聞いた情報の中に、カメラの起動音は、ない。
「というか、結構俺は焦ってたんだよね。ほら、三国ちゃん、群青メンバーのリストを見てOBの名前を覚えたって言ってたでしょ? その文字列を一瞬で覚えるってことは、ヤバイくらいの記憶力があるってことじゃん? で、三国ちゃんが拉致られた赤倉庫、あそこに俺の煙草の吸殻が残ったままだったからさ。銘柄覚えられてたらどうしようって。ちゃんと捨てといてって新庄に言ったのに、ああいう詰めは他人任せにしちゃだめだよね」
赤倉庫で、新庄とその仲間が座っていたソファ、その前にあったサイドテーブル。そのサイドテーブルの上の灰皿は煙草の吸殻で一杯だった。でも、新庄以外の人間は誰も煙草を吸っていなかった。遣り取りを聞く限り、あの日あの場所にいた人達はみんな新庄より立場が下だった。だから新庄の前では煙草を吸わなかったのだろう。
そして、美人局を嵌めようと画策していたあの日、雲雀くんは、煙草の吸殻が二種類あったと言っていた。つまり、赤倉庫で煙草を吸っていた人間は二人いた。
新庄以外にもう一人、煙草を吸う人がいた。そしてその人は、立場が新庄と同じか、上。
そして、新庄と能勢さんは、二人とも北中学の出身で、接点を持つ機会はたっぷり二年間あった。
どうして、見落とした。あんなに疑ってたのに、蛍さん達の話を素直に聞いて、大雑把な認識をして、安心しきって。こんなにもたくさんあったヒントを、どうして私は見落とした。どうして。
ラーファーソードー……と昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り始めた。私の焦りなど意にも介さないかのように、一定のリズムをゆっくりと刻む。
そしてそれは、能勢さんも同じだった。その顔はいつもどおりだったけれど、秘密を暴かれた側ではなく、秘密を暴露した側特有の余裕の笑みを称えているように見えた。
「さて、詰めの甘い三国ちゃんに問題です」
短くなった煙草を携帯灰皿に押し込みながら、甘いマスクが、まるで恋人に向けるもののような優しい微笑を浮かべる。
「夏祭りで写真を撮られたとき、カメラの起動音がしたかどうか、覚えてる?」
カメラの、起動音……? 茫然としたまま、意味と記憶を探る。
新庄はデジカメを拾い上げ、デジカメに私の写真が映っているかのような態度をとった。だから桜井くんはデジカメのSDカードを抜いて壊した。
「ね、三国ちゃん。デジカメって起動音があるよね。電源を入れるとピロリンって音がするよね」
能勢さんは指を動かして、デジカメの電源を入れるような仕草をしてみせた。
知っている。デジカメを起動すると音がする、奇しくもつい三日前に実証したばかりだ。なんなら、格納されているレンズが出てくるときにも音がする。起動音やシャッター音は設定で消すことができても、レンズが物理的に出てくるときの音を消すことはできないだろう。
自分が圧倒的に視覚優位であることは自覚している。ただ、相対的な問題とはいえ、耳で聞いたことも他人よりはずっとたくさん覚えているほうだ。
その、他人より多い耳で聞いた情報の中に、カメラの起動音は、ない。