白雪姫は寵愛されている【完】

──────ビリッ!



静かな部屋で布が破れる音がした。それは何度も何度も響く。


ちぎれた所から飛び出た綿。
目玉の黒いビーズが転がる。

目の前でバラバラになったクマが散乱した。
方耳だけ取れたクマの頭が転がってきた。


着信音が鳴った。
朔也くんの携帯の音。


「なんだ?」

『なんだ…じゃないでしょー!いつになったら来るわけ⁉ずっと待ってるんだけどぉ!』


何か話してる。
相手は宏くんだと思う。


話し終えた朔也くんが頭に手を乗せる。


ビクッ、



「白雪、明日が休みだからってこんな時間まで起きていたら駄目だろう?それと…寝る時も俺のあげた指輪は付けていないと駄目だ。いいね?………返事は?」



私は俯いたまま小さく頷いた。


「いい子だね。おやすみ白雪。いい夢を」


額にキスをして部屋を出ていく。
遠くで玄関と鍵が閉まる音がした。



恐る恐る手を伸ばす。クマの頭、体、腕、綿も全部拾い集める。



「…あ、あれ、もう一つ…ビーズ…何処かな…」



直せ…ますよね。大丈夫、だってこことここを縫えば…。


破れた、というより引き千切られた。布は細々とした粉のような物になり、縫えば元通りになるわけではない。


片耳もビーズも見つけられない。


唇を噛み締め、溢れて来たのは涙。
床に水溜まりを作っていく。



「…ごめん…なさ、い…ご、めんなさい……」



ボロボロになってしまったクマを書き集め、うずくまった。


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